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めぐみは高鳴る鼓動が抑えられず、自分の世界に浸っていた。どのくらい時間が経過したのか、めぐみには知る由もない。このまま時間が止まって、この空間だけが世界から切り離されたらいいのに──しかしそんな夢の一時は終わる。現実へと引き戻されるのだ。
「ワン!」
「──っ」
「ワンワン!」
犬の鳴き声に、めぐみは我に返った。大きな黒目と長く垂れた耳……赤褐色と白が混在した毛色の小型犬(キャバリア)が、めぐみに向かって「ワンワン」吠えていたのだが、すぐに「キャーッ!」と女性の悲鳴が聞こえた。
「あ、あ、あ……あなた、何てことを……」
見るからにこのキャバリアの散歩中だった、そして見るからにお金持ちそうなマダムが、めぐみを見てガタガタと体を震わせている。
「え?」
めぐみはマダムとキャバリアを交互に見て、目を瞬かせた。めぐみには何が起きているのか、理解できていない。
「そ、それ……!」
マダムが指をさした。彼女の人差し指には宝石の付いた指輪がはめられている。宝石が春の陽光に反射した。
「それ?」
まだ何が起きているのかが、理解できないめぐみだった。マダムはまだ体の震えが止まらず、マダムの傍に寄り添うキャバリアは吠えてめぐみを威嚇する。
「だから、それよ。その、あなたが持っているの!」
めぐみは手元に視線を移した。
「!?」
声が出なかった。
ひんやりとした冷気が体を突き刺すのを感じた。
どうして自分がこんな物を持っているのか。それは、黒くて冷たい塊。めぐみが両手に握っていたのは、黒の物質(マテリアル)──拳銃だった。
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