それは私じゃない

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 黄金の朝日。  直視したら目がつぶれる。  アパートの二階、もらい物の丈の短いカーテン(ちなみに遮光でもない・・・・・・まがい物の暗闇があんまり好きじゃないからこれで良かったのだ)から漏れた黄金は、じりじりと私の身体へ手を伸ばそうとしている。  無責任な友達面して親交の握手でも求めているような態度に、つい舌打ちをする。  今日という日は、爽やかでもない、清清しくもない。最初から分かりきっているくせに、始まりから全力に、わざとらしいくらいの仰々しさで私を騙そうとする。そういうところが許せないのだ。その純粋無垢な詐欺師のような印象は、もちろん私が勝手に感取しているだけだけれど、そんなこと了解しているけれど、それにしたって、晴天の朝日ほど絶望的な代物を、生まれてこの方、他には思いついたことがない。  昨夜は飲んだ。多分、とてもたくさん。仕事が終わってから、午後七時に学生時代の同級生、サヤと待ち合わせた。  初めて入った無国籍風居酒屋は、既に客で混んでいた。  サヤは男が途切れたことがない女だ。格別美人、というわけじゃないが、彼女には不思議な色気があった。男にも女にも媚びないし、性格はからっとしている。少し寂しそうな影があり、それが彼女に、彼女自身も自覚しているミステリアスな佇まいを与えていたりする。  サヤはいつも、いわゆる『ノーマルな恋愛』をしない。 「前言ってた人覚えてる?あの教授とできちゃった」  サヤが小さな声で呟いた。  私は大して驚かなかった。 「できたって付き合ってるって意味?」 「うん・・・・・・そう。先週からね」  いや、付き合っているだけではないだろう。サヤのいう「できちゃった」とはつまり「やった」と同意語なのだ。  私はその教授と面識がないが、サヤが勤めている大学の先生なんだろうな、と思った。  サヤは切れ長の瞳を伏せた。 「一緒に残業して。学会の準備で。先月からずーっと一緒に遅くまで仕事してて」 「そうなんだ」  サヤのこういう告白に、私はうまい返答を持ち合わせていない。いつものことだと言ってしまえばそれまでだったのだ。 「不倫とか、軽蔑したりする?」 「うーん、よく分からない」  そう答えたのは本心からだった。その時、頭に中に春日さんの顔がふと浮かんだ。サヤは私を見詰めていた。そして溜息とともに言った。  
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