それは私じゃない

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 私は、レストランの奥に並んで座った新郎新婦を見ていた。 どこもかしこも披露宴特有の、幸せ風味のねばっこい空気が漂っている。けったくそ悪い感じだ。ビール瓶がどんどん空になっていく。未就学児たちがぐずっている。おかしくなってきた。去年の従兄弟の披露宴は、自分だって人並みに感激したし楽しんでたのになあ。 そして余興の時間がやってくる。緊張などしなかったが、食欲がなさすぎて目の前の料理はあまり減っていない。 耳に馴染んだきんきん声が私を紹介した。 立ち上がり、ユイさんを一瞬見詰めた。 センスの悪いティアラを被っていたけれど、どこにでもあるような(真っ白だからかな)ドレスを着ていたけれど、そのとき、私の目を見詰め返したのは、それはそれは美しい花嫁だった。きっと今のユイさんはふんどしでもひょっとこ面でも美しいだろう。気だるく合成甘味料のように甘い披露宴という茶番が独りの女の恋する盲目に勝った瞬間だった(何の勝負をしていたのかは私にもさっぱり分からない) この茶番を人生の大一番と信じて疑わず、眼鏡を新調したらしき(やっぱりさっぱりつまんない)新郎の横で、正真正銘の花嫁と化したユイさんは、どっかの誰かが黒々とした邪念を抱いていることも知らず、あくまでも清らかに。 あの、朝日の黄金のごとく輝くのである。 本当に、満点の披露宴じゃないか。私以外は、何もかも完璧だった。 「智樹さん、ユイさん、ご結婚おめでとうございます。お祝いといたしまして、この歌をプレゼントさせてください」
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