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 帰ろうと振り返ると、社務所前のおみくじの箱が目に入った。わたしは近寄って小さな木箱に百円を入れ、大きい鉛筆みたいな箱を両手で大きく振った。小さな穴から木の棒が一本飛び出した。それは見たことのない黄金色の棒だった。 ──神様 「なんじゃこりゃ」思わず口をついた。  ふつうだったら大吉とか小吉とか書いてある棒の端のところに、「神様」という仰々しい文字が彫られて朱で浮かび上がっている。 「おめでとうございます」 「うわっ!」  耳元でいきなり話しかけられて、わたしは跳びはねた。ずれた眼鏡をなおして振り返ると、グレーのスーツに黒縁眼鏡、髪は七三分けという中年男が背筋を伸ばして間近に立っている。 「おめでとうございます。あなたの運勢は神様です。これであなたは今年じゅうに意中の人と結ばれることが確実となりました」  なにを笑顔でいってんだ、このおっさんは。わたしは思わず眉をひそめた。 「いやいや心配ありません、お金など一切必要ありませんから」男はわたしの当惑など無視して、勝手に喋り続ける。 「あの、間に合ってますから」  振り返って逃げようとしたわたしの目の前に、いつの間に移動したのかまた七三眼鏡が立っていて、危うくぶつかりそうになった。 「ですけどね、実を申しますとひとつだけお願いがあるんです」  そらきた。わたしは身構えた。 「見事願いが叶ったあかつきには、『この神社は縁結びに御利益がある』と宣伝していただきたいんです」     
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