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「へー、こばざくらっていうんだ」
思わずつぶやいてしまった。けどわたしの声をきく人は誰もいない。
一月一日初詣。さびれた神社。お正月と夏祭り以外には訪れる人もほとんどいなくて、お社はどこかの大きな神社からもらったお古だし、境内の木々は伸び放題。多賀野神社ってちゃんとした名前があるけど、わたしたちはみんな子どものころから「ただの神社」ってよんでいる。
そんな神社でも元旦にはそれなりに人がやってくる。わたしがそういった人たちと違うのは、ただひとりってこと。みんな家族やカップルなんかで新年の賑わいを楽しんでいるのに、わたしには連れだってやってくる友だちも彼氏もいない。おまけに極度の人見知り。
そんなわけでわたしは人が多そうな朝を避け、昼前にやってきた。それでも賽銭箱前にはちらほらと人がいたので、しばらくお社の裏に逃げることにした。
そこは本当にただの裏側で、木の皮を貼ったお社の壁にはクモの巣が揺れているし、垣根のそばには廃材のような汚れた角材が積み上げられている。
その材木のうしろから、遠慮がちに枝を伸ばしていた。その木は。
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