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滝本{たきもと}が到着したとき、既に公園内には花見客の姿があった。
(おいおい、まだ朝の七時だぜ)
今日は、桜が満開を迎えた週の日曜日。
ここは、桜の名所と謳われる自然公園。
花見のロケーションとしては最高だが、それでもみんな早すぎる。
どんだけ場所取りに命かけてんだ。
鼻で笑いそうになったがすぐに思い直した。
ならば、今ここにいる自分は何なのか。
(……花見の場所取りだ)
まんまブーメランである。
今日は、滝本の職場の花見だ。
そして社内唯一の独身である彼は、その場所取りに駆り出された。
もはや家を出る前から帰りたかった(矛盾)が、これも仕事と言い聞かせ、平日より早起きしてこの公園にやってきた。
桜は美しく咲き誇っているが、滝本の視線は下方へ向いていた。花見に最適な場所を探すために。
十人という人数は会社としては小規模でも、花見になると大規模だ。
早く行かないと他にとられる。
(あそこにするか)
特に大きくも小さくもない、その他大勢と何ら変わらない桜の木の下に決めた。水道も近いし、たぶん文句は出ないだろう。
持参したブルーシートを敷いて、滝本はどかっと座り込んだ。
「あー疲れた」
ため息をついて周囲を見回すと、いるわ来るわお仲間が。
滝本と似たような、いかにもこういう面倒事を押しつけられそうな感じの男ばかりだった。自嘲の笑みが漏れる。
ふいに眠気が訪れた。
時計を見ると、七時半。集合は十時だから先は長い。
滝本は腕を組み、桜の幹にもたれ、少しうとうとすることに決めた。
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