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薄紅色
「あなた…」
美輪子は昭三を見てはいない。
覆い被さってくる薄紅色の塊や、塊と同じ色のものが降るのを、涙を溜めた瞳で見据えている。
吊り上がった、よく手入れされた眉はふだんは美輪子の高慢で我儘な性格を周囲に暴露するのに役立っていたが、今はいっそ哀れだ。
真紅の口紅が唇の端からはみ出している。
昭三によって稚拙に塗りたくられた唇から歯が覗き、その奥は深い闇のようだ。紅筆を持った昭三の手がしっとりした頬に触れた時、涙が流れた径だけが乾いていた。
太い桜の木の下、真っ黒な地べたに敷いた緋毛氈の上にくいを打ち、はだけた襦袢一枚の美輪子を庭仕事用の荒縄で固定する。
首、二の腕、肘、手首。乳房の下、臍の上。
ささくれだった縄が喰い込み、肌が赤みを帯びてくる。かゆいのか、不自由な胴体を美輪子がわずかにくねらせる。
その上に、薄紅色の小さなものが漂いながら落ちる。
にぃっと片頬をあげる昭三だが、笑ってはいない。
「リリパット国に上陸したガリバーさんだ」
ガリバーは膝を立て、脚を開いた形で固定されはしなかったろう。
美輪子の脚はその中心へ、これから何かを受け入れさせられるのを待ってでもいるように開いていた。
くるぶしまでをきっちり覆う足袋の上から縄が掛けられ、毛氈の上にくいが打たれる。
「膝を閉じなさんなよ。絶対に。口もだ。よだれがこぼれようと、花びらが入ってこよううと。でないとさ。」
昭三が羽織の袖から何か取り出す。拳銃が美輪子の目の端に入る。
「佐川君にネットで手に入れてもらったよ。次の作品に使いたいって言ったら、すぐに取り寄せてくれた。彼は本当に重宝するなあ。僕の原稿をもらうためならなんでもするんだ。」
縄に逆らいようよう顔をそむけた美輪子の、冷や汗で髪が幾筋か張り付いた首筋に、また花びらが散りかかる。
「きれいだなあ。ほら、桜の花びらが臍の上に落ちて。うまい所に落ちるなあ。おっぱいにも鳥肌が立ってるね。あれ?乳首がしこってるじゃないか。へぇ。こんな時に興奮してるんだな。惨めだな、美輪子。」
美輪子の肌をざらざらと舐めでもするように、昭三はしわがれた声で嬉しそうに言う。
「さあ、仕上げだ。」
昭三は美輪子の目を、大きなリボンのついたレースの目隠しで覆った。派手で軽薄で、カネで買われた女が男を自分の体で遊ばせる時に使うようなどぎつい赤が、白い顔の上に嵌った。
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