1.フロランタン

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 それなら今、僕の横にその袋が置かれている。 「いや、この多くは『アーモンドスライス』をのせて焼き上げて作るから、そのナッツは使わないよ」 「そうですか」 「ちなみにコレはドイツ、オーストリアという国の方面で好まれているんだ」「ふむふむ」 「……そのナッツ美味しい?」 「ふぁい」 「それはよかった」 「むぐむぐ」  この『フロランタン』が『アーモンドスライス』を多く使うと聞いて安心し、僕はさらにナッツを頬張(ほおば)った。 ◆ ◆ ◆ 「さて……と、そんじゃ始めようかな!」 「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください」 「ん? どうしたの?」 「あの……バターと小麦粉、それに卵すらないじゃないですか」  僕たちの前に並べられた材料の中に、僕が思うお菓子作りでよく使われる物がない。 「えっ、なくても作れるよ?」 「……えっ」  驚いている僕をよそにその人は「代わりに……」と、『米粉(こめこ)』と大きな文字で書かれた袋を置いた。 「後は……豆乳かな」 「豆乳? ですか?」  これまた、お菓子作りではあまり聞かないモノだ。 「うん。俺の作る『お菓子』にはそういったバターとか小麦粉とかあまり使わないんだよ」 「そうなんですか」 「そっ、だから『アレルギー』のある人とかよく買って行ってくれているんだよ」 「アレルギーですか」  その言葉は聞いたことがある。  僕の記憶が正しければ、ある特定の『食材』や『材木』、他にも『花粉』などなど……その『アレルギー』と言われるモノは色々な種類があるらしい。 「じゃあ、あなた自身が『アレルギー』をお持ちなんですか?」 「ううん。俺はそうじゃないんだ」 「じゃあ、なぜ?」 「昔……ちょっと色々あってね」  言いにくそうにちょっとだけ笑い、その人は不思議そうに首をかしげる僕をよそに早速『てんさい糖』と書かれた袋を持った。  そして分量を量った後、ボウルに入れ、『フロランタン』を作り始めた――。
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