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「あれ……? この匂いは……コーヒーですか?」
「おっ、当たり。コーヒーを小さじ一杯だけ入れるのが隠し味なんだよ」
「そうなんですか。全体的に甘いモノになりそうでしたけど、そうではないんですね」
「うーん、そうだね」
実は、さっきからの様子を見ている時から『砂糖』の代わりに『てんさい糖』を使っているとはいえ、『糖類』を大量に使っている印象があった。
だから、僕はこの『フロランタン』というお菓子は、かなり甘いモノだと勝手に思っていたのだ。
「さて、このとろみがついたものにアーモンドスライスを……って、アレ?」
コンロの火を消すと、なぜかその人は突然辺りをキョロキョロと見渡し始めた。
「あっ、すみません。移動させました」
ようやく探しているモノに気が付ついた僕は、量り終わった『アーモンドスライス』が入ったボウルをその人に差し出した。
「ああ。驚いたよ。突然置いてあったはずの場所にないから」
「すみません。ちょっと邪魔になって……」
「あはは、大丈夫だよ」
そう言って少し笑うと、受け取った『アーモンドスライス』を小鍋に投入し、よく混ぜた。
「よし、それでコレを……」
小鍋を持ったまま先ほどの『生地』の上で手際よく広げ、いつの間にか温められていたオーブンの中に戻した……。
「それで、焼きあがって少し冷やしたら……」
「完成ですか?」
「いや、完全に冷める前に切らないと」
「……なぜ?」
「食べにくくなるからね。さすがに一枚まるまる渡す訳にもいかないし、冷まし切った後だと、割れやすいし、切りにくいから」
「なるほど……」
そんな会話をしていたが、オーブンに入れられる前に見た『生地』は『美味しいお菓子』ではなく……ただの『木の板』にしか……僕には見えなかった。
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