1.フロランタン

14/15
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ
「はぁ……全く。こんな『ちょっと贅沢(ぜいたく)な焼き菓子を希望します』なんてややこしい注文をするから……」  ――いや、僕を気遣って……という訳ではなく、本当にその『注文』を早く終わらせたかっただけなのかも知れない……と、次に呟いたこの言葉を聞いて思った。 「……それで? どうだった?」 「どうだった……とは?」 「いや? 興味をもってくれたと思っていたんだけど……」 「そう……ですね」  確かにこの人が『お菓子』を作っている姿を見るのは、面白かった。 「あっ、君が気にしているのはもしかして、『住むところ』かな?」 「えっ」  それもあるが、やはりこの人が僕にここまでしてくれる『理由』が分からない。 「……わざわざ言われなくてもちょっと考えれば分かる事だよ」 「そう……なんですか?」  僕はいまひとつピンときていなかった。 「だって、君は『空腹』で店先に倒れていたんだよ。しかも、その住処(すみか)であるはずの森は火事で燃えてしまった……。そうなると、君は住むところがない……と考えるのが普通だと思ったんだけど?」 「……」  確かに言われてみれば……この人の言う通りである。  そして、この『言葉』には「僕を助けたのは『当たり前』の話で、今はそんな事が問題ではない」と言っている様に思えた。 「だからさ。俺としては、ここに住んで欲しいと思っているんだよ」 「えっ」  ただやはりあまりに唐突な話だったため、僕はその場で固まった。 「まぁ、突然な話で驚かせてしまうとは思っていたけど、ここには君が好きな食べ物が用意できる」 「…………」 「それに、住処(すみか)として使えそうな部屋もあるし、部屋が嫌なら、自分で作れる場所もある。悪い話ではないと思うけど……」 「そっ、それは……ありがたいお話ですけど」  そもそも、僕とこの人は出会ってまだ一時間が過ぎたくらいのはずだ。それなのにこの人はなぜかすごく優しい。
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!