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「はぁ……全く。こんな『ちょっと贅沢な焼き菓子を希望します』なんてややこしい注文をするから……」
――いや、僕を気遣って……という訳ではなく、本当にその『注文』を早く終わらせたかっただけなのかも知れない……と、次に呟いたこの言葉を聞いて思った。
「……それで? どうだった?」
「どうだった……とは?」
「いや? 興味をもってくれたと思っていたんだけど……」
「そう……ですね」
確かにこの人が『お菓子』を作っている姿を見るのは、面白かった。
「あっ、君が気にしているのはもしかして、『住むところ』かな?」 「えっ」
それもあるが、やはりこの人が僕にここまでしてくれる『理由』が分からない。
「……わざわざ言われなくてもちょっと考えれば分かる事だよ」
「そう……なんですか?」
僕はいまひとつピンときていなかった。
「だって、君は『空腹』で店先に倒れていたんだよ。しかも、その住処であるはずの森は火事で燃えてしまった……。そうなると、君は住むところがない……と考えるのが普通だと思ったんだけど?」
「……」
確かに言われてみれば……この人の言う通りである。
そして、この『言葉』には「僕を助けたのは『当たり前』の話で、今はそんな事が問題ではない」と言っている様に思えた。
「だからさ。俺としては、ここに住んで欲しいと思っているんだよ」 「えっ」
ただやはりあまりに唐突な話だったため、僕はその場で固まった。
「まぁ、突然な話で驚かせてしまうとは思っていたけど、ここには君が好きな食べ物が用意できる」
「…………」
「それに、住処として使えそうな部屋もあるし、部屋が嫌なら、自分で作れる場所もある。悪い話ではないと思うけど……」
「そっ、それは……ありがたいお話ですけど」
そもそも、僕とこの人は出会ってまだ一時間が過ぎたくらいのはずだ。それなのにこの人はなぜかすごく優しい。
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