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その時の表情は少し寂しそうだったが、玄関にかけている……手とは逆に持っていた『大量の菓子が入った袋』がなければ、その言葉や表情も、もう少し説得力がものになっていたはずだ。
しかし、『大量の菓子が入っていた袋』のせいで、大事な雰囲気は半減していた。
まぁ、そこがあの人らしいといえば、あの人らしい。この肝心なところで抜けてしまっている感じが……。
「さて、この手土産の件をどうしたものか……ん?」
ふと目にした玄関は、姉がキッチリと閉めて出て行ったはずだ。そもそも俺は玄関に近寄ってすらいない。
それなのに、なぜか不自然に開いている。
「……お客か?」
多少、疑心暗鬼ではあったが、俺は少し開いた玄関に手をかけ、小さく開いていた扉をさらに大きく開けた――。
時は遡り……。
先ほど出ていた『お菓子屋』から少し離れた『森』だ。
だが、今のここは全く『春の息吹』なんてモノを全く感じさせない。もはや『森』ですらない。ここに広がっているのは……『枯れ果てた大地』だけだ。
そんな大地の下から、小さな小さな『茶色の動物』がピョコっと可愛らしく顔を出した。
しかし、その『動物』の顔は、なぜか不思議そうに目を丸くし、辺りをキョロキョロと見渡した。
「……えっ?」
その『動物』は、多分。外がこんな状態になっていただなんて、夢にも思っていなかっただろう。
だって、この『動物』はついさっきまで『冬眠』していたのだから……。
◆ ◆ ◆
「……どういう事? 何、この状況」
僕は変わり果てた外の風景に思わずそんな言葉を発していた。
なぜなら、そこには僕の知っている『緑豊かな景色』ではなく……いや、もはや緑一つない……ただの平地が広がっている――。
『シマリス』
人間たちは僕たちの事を総称してそう言っている。
でも、もっと細かく分類すると、僕はシマリスの中でも『トウブシマリス』という種類になるらしい。
そんな僕たち『シマリス』は、もっと言えば『リス』たちは全て『冬眠』をすると思われているが、実は種類によっては『冬眠』をしない。
だけど、僕たちのは冬眠をする。そのために僕たちは秋の間にたくさんの食料を集めている。
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