2.パンケーキ

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「あの、何かご用でしょうか?」 「ええ。実は折り入ってご相談したい事がありまして……」 「マシューさん。そろそろ入らないと……って」  あまりにも僕が戻ってこないのを心配したのか、ヘンゼルさんは玄関を開け、僕に声をかけた。 「あっ、この方も従業員の方ですか?」 「えっ、あっはい。一応ここの店長……という事になりますね」  そもそも1人しかいなかったところに僕が来ただけで、『一応』も何もない。 「あれ、あなたたちは確か……『7人の小人さん』……ですよね?」 「ヘンゼルさんご存じなんですか? この人たちを」 「あっ、うん。でも、ここまで来るにはかなり時間がかかったのでは?」 「ええ。ですがどうしても『お願い』したい事がありまして」 「お願い……ですか?」 「?」  僕たちが顔を見合わせ、「分からない」という顔をしていると……「おいっ! 起きろ!」といきなり怒りっぽい人が寝不足の人の頭を叩いた。 「うーん……?」  だが、叩かれたにも関わらず、寝不足の人はなぜか(にどね)をしそうになっていた。結局その人は袋を奪い取り、その中から『あるモノ』を出した。 「コレを使った美味しいお菓子を作って欲しいのです」 「……コレですか」  見せられてた『コレ』を見た時、なぜかヘンゼルさんは、難しそうな顔をした。  しかし、僕の位置からではおじさんの手しか見えず、肝心の『モノ』が見えない。それに気が付いたヘンゼルさんは、その人が見せた『モノ』を僕にも見せてくれた。 「コレ……」  僕は思わずヘンゼルさんの顔を見た。でもやはり僕はなぜ、ヘンゼルさんがそんな表情をしたのか……分からない。 「うん。『林檎(りんご)』だね」  ヘンゼルさんはただ呟くようにそう言ってそのまま、ただ黙ってその袋の中を見つめていた……。
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