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「それで、この林檎を使ったお菓子を作って欲しいとの事ですが……」
『はい』
ヘンゼルさんがお茶を出しながら尋ねると、小人のおじさんたちは全員声を揃えて返事をした。
今度は一糸乱れず全員揃っている……1人を除いて……。
ただ寝不足な人は、椅子に座っていながらも相変わらず頭を上下させており、たまに倒れそうになっては隣にいる人が支えている。
ちなみに、この小人のおじさんたちは全員店内の椅子に座って話をしている。これは、ヘンゼルさんが「立ち話も悪いから……」と言って案内した結果である。
「ただ……」
「ちょっと問題が……」
「問題というか……」
「トラウマ?」
「トラウマというか……」
「事件だろあれは」
「うーん」
「……」
「……」
小人たちは相変わらず、お互いの顔を見合わせながら、色々言い合っている。
でも、ありがたい事に1人ずつ話してくれるので、何を言っているのかはすぐに理解が出来る。
ただ、ここまで被らないとかえって面白い。
僕とヘンゼルさんも顔を見合わせていたが、こちらは笑いを堪えるのに必死なだけだ。
「……あのー」
「どうかされましたか?」
「いえ、失礼致しました。ところで、先ほど『事件』と仰っていましたが」
気を取り直して、今の会話から疑問を一つ投げかけた。
「はい」
「実は……」
「美味しい林檎が出来て」
しかし、返って来た答えは、僕たちの予想とは若干違っていた。
「だが、わしらだけでは食べきれない」
「そこで、この林檎を食べて頂きたい人がいるんですけど……」
「その相手が……」
ヘンゼルさんが『その相手』という言葉を言った後、なぜか気不味そうにおじさんたちは突然口を噤んだ
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