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1.フロランタン
見上げた先にあるのは『どこまでも広がる青空』ではなく、『見覚えのない建物の天井』だった。
「あれ……僕」
「あっ、起きた?」
そう僕に話しかけてきたのは一人の人間だった。
――この世界は『人間』も『動物』も関係なく、言葉が通じる。
普通は一方的に話しかけたり、かけられたり……と上手くいかない。しかし、この世界ではそれがない。
つまり、話が伝わらない……というストレスはない。ただその代わりに、伝わるからこそ生まれるストレスがある。
「あの、ここは……」
「ここは『お菓子屋』だよ」
「お菓子屋?」
「そう、お菓子屋。ここで、色々なお菓子を販売しているんだよ」
「あの……なんで僕はここに?」
人間たちが『よく行く場所』の一つとして話に聞いた事はあるが、行った事はない。
「さぁ? ただ、俺が見た時にはここの玄関の前で君が倒れていたんだ」 「えっ!?」
「……ん? 何でそこまで驚いているの?」
「いや、確かに僕はこの周辺に来ましたけど……」
わざわざ人間が立ち寄りそうな場所にはそもそも近寄ろうとしない。
「でも、君はここにいるじゃないか」
とても……優しい微笑みだった。
「それは……そうですけど」
正直なところを言うと、空腹のあまり記憶が曖昧で、自分がどうやってここまで来たのか覚えていない。
「あっ、そういえばこの冬の間に大きな『山火事』が起きたらしいね。確か、あの時……かなり大騒ぎになっていた……って聞いたよ?」
「……えっ」
「ん?」
「その話。もっと詳しく教えてください」
「あっ……うん。俺もあまり詳しくは知らないんだけど」
「いいんです。少しでも状況が分かるのならそれで……」
僕が俯きながらそう言うと、人間は「分かった」と言いながら思い出すように、ポツポツと語った。
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