さくらと、私

1/8
前へ
/16ページ
次へ

さくらと、私

疎水沿いの桜が満開になろうとしていた。 四月一日。世間がエイプリルフールだなんだと騒がしいのとは対照的に、ここは’シーン‘という擬音が聞こえそうなほど静かだ。 私は、死に場所を探していた。 明確に死にたかったわけではない。 けれど、明確に生きている意味もなかった。 「なにかやりたいことはないの?」 何度も聞かれた。 ……何度考えてもなにもなかった。 私は、無なのだ。 「何もないって……。何かあるだろう? 自分のことなんだぞ? ちゃんと考えなさい」 もちろん、悪気があって言っているわけではないことはわかった。けれど、数え切れないほど聞いたその言葉は、何者でもない自分という存在を責められているようで、堪えられなかった。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加