さくらと、私

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もし、私にやりたいことがあるというのなら。 それは、死ぬということだ。 だから、私は死ぬことにした。 満開の桜は、私に死を決意させるに十分な存在だった。 (こんなところ、あったんだ……) そこは、木々に囲まれた小さな池だった。 住宅街の裏手にあるこの疎水は、近所だったこともあり何度か通ったこともあった。桜が何本も植えてあり、この時期は風靡なのだが、場所が悪く、人はあまりいない、いわゆる穴場スポットのような場所だった。 けれど、そのさらに奥に、こんなところがあるとは知らなかった。 池のほとりには、一本だけ、桜の木があった。 (ここが、いいかもな) 何本も咲く桜から少し離れた薄暗い場所で咲くこいつに、もしかしたら共感でも覚えたのかもしれない。……桜だというのに。 ふらふらと、わたしは何かに吸い寄せられるように、池に向かう。 これから死ぬつもりだというのに、特に感慨もなかった。 死が無へ向かう行為だというのなら、私は、すでに死んでいるようなものだ。 池は、思ったよりも深そうだった。ここなら、死ねるだろうか。 落ち葉が浮かぶ淀んだ水面は、何も映さない。
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