ゼロ本桜の木の下で

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 森林に囲まれた学校の塀の外側。ひとりの少年が金色に輝く髪をなびかせて、ぬかるんだ土の上を慎重に歩いていた。 三日前の梅雨の影響だ。隙間なく敷き詰められた木々に陽の光を遮られ、乾くことを許されなかった泥の地面が、腹いせで少年を引きずりこもうとしていた。  少年はきれいな白スニーカーを汚さぬよう、かたい芝生の部分を足で探りながら進んでいる。すると前方に、太陽光のみちしるべが見えてきた。それこそ少年──アッシュ・ゴードンが探し求めていたものである。  はげた木のえだを突き抜けて降り注ぐ、天使の祝福のような光がアッシュの顔に当たった。じりじりと焼きつけるような太陽光も、雨上がりのうすら寒さの中では心地よく感じる。──冬場に食べる鍋料理が一段とおいしくなるのと一緒さ──彼は今、それを独り占めにしているのだ。  アッシュはサラサラの地面の上に座り込んで、ズボンとお腹の間にはさんで持ち運んでいた分厚い本を取り出した。日向ぼっこと読書。アウトドアとインドアの融合体だ。     
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