「る」

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瑠璃色の大きな瞳は、わたしの心を貫き通すよう。 10歳程の少年は、席に座ったまま、がら空きの電車でつり革を持ち、視線を合わすまいと広告を眺めるわたしを、じっと見つめていた。 わたしの真正面に座っているとはいえ、印象的すぎる眼でこんなにもジッと見られてしまっては、流石にたじろぐ。 「お姉さん」 静かな電車内に透き通るような声が響く。わたしはビクリと肩を震わせ再び目を背けたが、周りの人たちは、彼に気づいていないかのように無反応だった。 「ねぇ、お姉さんってば」 二度目にして、わたしはやっと意を決して少年の眼を見た。やっぱり彼の瑠璃色の眼は、わたしを見透かすようで。 でもどこか、優しくて懐かしい。 「お姉さん、やっと、気づいてくれた?」 真っ白のショートヘアを靡かせ、少年はふわりと微笑む。わたしは恐る恐る、口を開く。 「君、誰?」 わたしの言葉に悲しげに眉を下げながら、少年はまた口を開く。 「ぼくはお姉さんのこと知ってるよ。前にね、すごく悲しませちゃったでしょ。だから今日はごめんね、今までありがとうって言いた――」 「あの、そこ退いてもらえます?」 少年と被せるように、おばさんが口を挟む。 「え? どうしてですか?」 「だってそこ、席空いてるじゃない。それとも、あなたが座るのかしら」 おばさんが指差した、少年が座っていた席は、いつの間にかぽっかり空いている。 「すみません、座ります」 そう言うと不満げに去っていくおばさんに対し申し訳なく思いつつ、スマートフォンの電源を入れる。 ロック画面には、数ヶ月前に亡くなった、真っ白い毛並みと瑠璃色の瞳が印象的な愛犬が写っていた。 *next「た」*
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