4月

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4月

4月になった。俺は大学受験の為の予備校に行く。浪人だ!悪いか、浪人だ!浪人って言葉が良くねえんだ。これからまた大学に挑戦するんだから挑戦者で良いじゃねえか、この野郎!俺は、今の俺の身分を『チャレンジャー』と表現しておく。 さあ、チャレンジャーどもが集う予備校まで来てやった。特に何の期待感もなく、予備校の門をくぐる。門の近くに小さな桜の木があった。ピンクの花びらがわずかに残ってるが、もうほとんど緑だ。 何となく桜の木を見上げた。 そして目をおろした。 その時ですわ。 はい、いました。卒業以来会ってなかった女とバッタリ再会しましたー。くそ、なんかカジュアルな春らしい爽やかな服着てやがる! 「あ」 「あ」 お互い相手に気付いた瞬間の第一声が、これよ。一瞬顔見合わせて、笑っちまったよな。俺は、ごく自然に質問したよ、そりゃ。 「え?ってか、なんでチャレンジャーが集う予備校にいるん?大学受かったんだろ?お前、通過者じゃん」 「受かったけど、第1志望はおろか第4志望でもないし。もう1年頑張ろうかなと。君こそ、何でこの予備校選んだの?」 「まあ、家から近いから」 ああ、なんだこの気分は。嬉しさと恥ずかしさが交互に襲ってきやがる。 相変わらず表情が読めない女だ。嬉しいのか迷惑なのか…。 「ねえ。思わずスルーしたんだけどチャレンジャーって何?浪人のこと?」 「そうだよ。浪人って表現が良くねえんだ。これからまた受験に挑戦するんだから、チャレンジャーで良いだろ!」 俺がそう持論をまくしたてると、女は笑った。何だよ、何がおかしいんだ、こいつ。 「君は、君が思っているより面白い奴だよ」 なんだよそりゃよ。誉め言葉かディスられてるかも分からねえわ。 「面白いか?俺は、なかなかネガティブな野郎だぜ」
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