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おやすみなさい
私と佐貴子は、再び志田家を訪れた。
聖くんのママは相変わらずきれいだったけど、とてもやつれていた。
気丈に私達を真新しい仏壇の前に案内してくれる。
果物、花、お菓子が所せましと並ぶ中、聖くんの遺影は微笑んでいた。
ああ、セイの笑顔。はにかんだような、涼し気な、賢そうな笑顔。
涙があふれて遺影がかすむ。
ママが、私達の持って来た花を花瓶に活けて持ってきてくれる。
「聖のために、ありがとうございます。そちらの方は…」
F高とは違う制服を着ている私に尋ねる。
「私の友人で、山里かれんさんです。志田先輩が、家庭教師のような事をして
勉強を教えてくれていたので、連れて来たんです。
あ、もちろんお金は取ってないですよ、志田先輩。」
佐貴子が機転をきかせフォローしてくれる。
「そうだったんですか。まあ…あの子が」
私はハンカチで顔を覆ったままはい、はい、とうなづく。
じゃあ、と言ってママはどこかへ消え、本を数冊持って来た。
「聖の使っていた参考書です。どうぞ、持って行ってください。」
いたるところにアンダーライン、
体と同じほっそりした、でもしっかりした筆跡の書き込みがある参考書。
セイが現実世界でも精一杯生きていた証拠が詰まっている。
勉強はとてもついていけないけれど、
日時計の公園であなたと語り合ったことを思い出し、
あなたのことを思って一日を終えることにします。
参考書を胸に抱いてあなたの為に祈り、
枕の下に敷いて眠る。
せめて本当の夢にでも、一度でいい、出てきてほしいと願いながら。
おやすみなさい。
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