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「分かっちゃったんだね」
満月と街灯がセイの悲し気な、やるせない顔を照らす。
セイは青に細い水色が入った縞のネクタイを締め、濃紺のブレザーを着ている。
F高の制服だ。
「せっかくブレザーを脱いで、ここしか知らないって言ったのに」
「セイ!あなた志田聖くんでしょ?」
「来ちゃだめだ!」
駆け寄ろうとした私を、セイは今までにない激しい口調で制する。
「今日は絶対に、その石板から出ちゃだめだ」
「え?」
「出た途端、君は現実に戻れなくなる」
私は訳が分からず日時計を背に固まる。
「僕みたいにね」
どういうこと?
「ここの住人の名前を知った人が石板から出ると、
その人はここの住人にならなければならない。
そして現実世界では眠り続ける。見ただろ?現実の僕」
一歩一歩、セイは私に近づいてくる。私は足がガクガク震えてくる。
セイが私の前に立った。
「つまり、僕が現実世界に戻るには、
僕が誰かを知る人を、ここの住人にしてしまえばいい。
そうすれば僕はこの空間から居なくなり、住人は、次の住人が来るまで
一人でここに住むんだ。
ここはそういう空間なんだって、僕は前の住人から聞いた」
目が回る。あまりにも現実離れしている。
夢と現実の間に、そんな恐ろしいリンクができていたなんて。
とにかく次の住人が来ればセイは解放されるっていう事は分かった。
でもそれって、私!?
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