住人たち

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住人たち

「で、でもどうして、私が?」 足に力が入らない。 もう私は尻もちをついて日時計の柱に寄りかかっていた。 「一週間くらい前、ここに来たことないか? ここと気づかずに、この日時計の前に来た事とか」 セイは私を見下ろしながら言う。 そういえば…。 専門学校のオープンキャンパスの帰り、電車を乗り間違えた。 乗り換えまでのヒマつぶしにあたりを歩いてこんなところへ出た気がする。 なんで忘れていたんだろう。 昼間だったから、夜とは違う景色が見えた。 気味が悪い所だと思って、すぐ退散したんだった。 「多分それで、君はこの空間のログインポイントに立った。 僕も自転車で祖母の家に行く途中、 日時計が見えたから珍しくてここに寄ったんだ。 僕の前の住人は奥さんと幼稚園に通う女の子がいるサラリーマンだった。 彼の前は3カ月もいたと言う老人。 サラリーマンの彼は早くここを出たがっていた。 僕に自分を探してくれとまで言ったよ。 僕が懸命に探して彼の名前を突き止めたら、 彼はさっき話したようなここの仕組みを僕に教えて、 許してくれって土下座した。」 「そ、そんな。」 恐ろしい話に血の気が引く。寒い。 「最初は恨んだけどね、仕方ない。彼は家族がいるもの。 5日で目覚めたはずだ。」 セイは、いえ志田聖くんは、騙されて、犠牲になって、 一人でこんなところに2週間もいたのだ。 「これはサラリーマンが老人から聞いた話だけど、 住人の名前を突き止めるまで、住人候補はここの夢を見続けるんだそうだ。 そしてここの住人の名前を知っても石板から出なければ、 夢から覚めた後は二度とここへは来ないらしい。 だから君は出ちゃだめだ。」 震えながらこの絶望的な話を聞くうちに、私は決心した。 石板から出よう。
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