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息を切らせて堤防を駆け上がれば、一面の白だ。視界をまだらに染めて、頬を何枚もかすめていく。ネクタイを外したブラウスの首元から入り込んでくる。雪の様で、溶けない、優しい肌触り。あぁ桜が降ってくる。そう認識する前の数秒間の幸福を、光を反射してひらめく、花弁が切り裂いていく。瞬間、真っ白だった視界がけばけばしいサイケデリックに滲んでいく。赤、青、黄の原色の絵具を、巨大な刷毛で塗りたくったみたいな、めちゃくちゃな色調に桜は変わった。肌に触れるところから切れていって、油のようにてかてかと光沢を放つ液体が傷口から勢いよく溢れだす。 ──あぁ、殺される。嫌、でも、もっと── 柔く、鋭い刃が止めどなく降りかかってきて────遠くでサイレンが鳴った。
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