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「目に浮かぶようだね」  私はしみじみと言った。彼の話をきくと、情景を細部まで思い描くことができた。  王子は涙にぬれた瞳で、驚いたように顔を上げ、兄を見たのだろう。その美しい面差しと、激しい気性に兄は心揺さぶられる。二人はこれまではっきりとお互いの姿を見ることはなかった。立場の違いから二人は遠ざけられ、広い王宮で無関係に生きてきた。  雨が天井をうつ音が優しいノイズとなって私と彼を包みこむ。私は心静かに彼の話の続きを待つ。 「第一王子と第二王子はじきにお互いが腹違いの兄弟だと知った。わかったところで、一度火がついた恋心を止められるわけはない。もちろん誰にも秘密だ。父王に隠れ、従者に口止めし、こっそりと会い続けた。  ところがある日、弟は病に倒れた。兄はもちろん弟に近づくことを禁じられた。何か伝染するたぐいの病気かもしれないからね。でも聞く耳を持たなかった兄は、何度も弟を見舞った。時には寝室に忍びこんで一晩中背中を撫でた。そんな看病の甲斐もなく弟王子はあっさりと死んでしまったんだ。兄は嘆き悲しみ、後を追うようにして亡くなった……」  きらびやかな王族の衣装と装身具でを飾りたてられた第二王子の遺体は、豪奢な棺に横たえられる。愛しい弟を失い、気がふれんばかりの上の王子。悲嘆にくれる王とお妃、泣き崩れる大勢の家臣たち。不幸は続く。兄王子までも身罷る。民は、国は、喪に服す。  二対の若く美しい瞳が何かを映すことはなく、その唇は何もささやかない。人々の流す涙も枯れはててしまった。  一人の少年を弔うための華々しい葬列を思いながら、私は彼の傷んだ指先を握りしめ、手の中で温めようと必死だった。先ほどからそうしているのに、芯から冷えきったままで、ちっとも温まる気配はない。なぜかと考えて、すぐに気づく。  私の指も彼と同じくらい冷えているのだ。  ……これでは温めることができるわけがない。
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