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「自由な時代に生まれたんだ」
「……え?」
「やっと自由な時代に生まれたのに、なかなか出会えなかった」
彼に見とれていた私は、最初何を言っているのかわからなかった。困惑しながら、さっきの話のことだと遅れて理解する。
「必死で探したのに、兄さまは別のやつといい関係になっていた。だからとても腹がたって、……。本当に頭にきたんだよ」
一頭の蝶が、私のところに来た。本来なら気味が悪いと追い払うところ、それがとまるにまかせた。まるで気の利いたブローチのように私の安物のジャケットの上にとまる。
「だから殺した」
私の胸にとまった蝶がひらひらと飛びたつ。
「……殺し、た?」
「そう。今はとても後悔してる。言い訳のひとつくらい聞いてやればよかった。でもぼくの気持ちもわかるでしょ?死に物狂いで探したのにさ、生まれ変わってまた出会おうって約束、すっかり忘れて、のんきな顔で他のやつとベッドでよろしくやってるんだ。そりゃ頭に血が上るさ」
イライラと言って、小川への道をくだってゆく。蝶は、彼を追うように飛ぶ。
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