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 悲しい別れを経て、出会い直すために生まれなおした。それをわかっていながら、自由な時代の享楽的な空気に、私は安きに流された。  誰よりも王子との再会を求めながら、運命から目をそらした。王子はそんな私を探しだした。しかし私は目の前の欲望に溺れていた。全部私が悪いのだ。  自業自得でありながら、それでも私は深く傷ついた。  なぜならやっと出会えた愛しい弟、運命の恋人に殺されたのだ。その痛み、苦しみ、絶望。  結果的に私はもう一度犬になった。人間になどなってやるものか、という私なりの彼への意趣返しだった。  しかし彼はペットショップで愛に飢えて震えている私をちゃんと見つけだしてくれた。私は最初彼を許すつもりはなかったが、彼と目が合い(すぐに彼と気づいたし、彼は私と気づいた)、彼に買われ、暖かな部屋に連れ帰られ、献身的に世話をされるうちに、許してもいいような気になっていった。私という人間はとても単純にできているのだ。(もちろん当時は犬だったけれど。)  とはいえ犬の寿命は人間より短い。すぐに別れがきた。  別れを前に泣きだしてしまった彼の頬を舐めてやりたかったが、くうんとも声がでない。前脚を持ち上げるのもおっくうだった。ただだらりと舌をだし、はあはあとあえぐほかなく、どうか泣かないで、きみと私はまた出会える、今度はちゃんと人間になるから、待っていて――。
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