桜の下で

2/16
前へ
/16ページ
次へ
 ***  桜の精に会ったよ、と口に出したら、目の前の友奈がかっちりと動かなくなった。ついでに、出てきた言葉のしょうもなさに、自分でもちょっと残念になる。 「あったま大丈夫?」 「一応。多分」 「ちなみに、どんな状況で?」  うーん、と思い出すために、少し俯いた。 「昨日の帰り道にさ、ソフトテニスのボールで遊びながら帰ったんだけど」 「ああ……拾ったやつね。活動日じゃないから、今日返そうってなったアレか。え、それどうしたの」 「ボールは朝イチでクラスの部員に返したよ。で、桜が咲いてんじゃん? だからちょっと遠回りして花見してたわけ」 「器用ね、ホント。あの跳ねすぎて困るボールをポンポンやりながら桜見上げたとか」 「そうそう。で、こう……思いっきり高く」  手で長い弧の形を描き、頂点を過ぎたあたりで止めた。ほんとうに、上手いことやってしまったのだ。塀が並んでいる御屋敷通の桜の、ひときわ大きく、そろそろ満開になって花に覆われた一本の中に、吸い込まれていった。  そしたら、ぽーん、と。 「戻ってきた……?」 「そう。で、よく見たら、桜の木のところからにゅっと手があってね」 「待って待って待って」 「妙に白っぽいなぁとか思ってたら、見えなくなっちゃった」 「……」 「友奈?」
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加