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桜の精に会ったよ、と口に出したら、目の前の友奈がかっちりと動かなくなった。ついでに、出てきた言葉のしょうもなさに、自分でもちょっと残念になる。
「あったま大丈夫?」
「一応。多分」
「ちなみに、どんな状況で?」
うーん、と思い出すために、少し俯いた。
「昨日の帰り道にさ、ソフトテニスのボールで遊びながら帰ったんだけど」
「ああ……拾ったやつね。活動日じゃないから、今日返そうってなったアレか。え、それどうしたの」
「ボールは朝イチでクラスの部員に返したよ。で、桜が咲いてんじゃん? だからちょっと遠回りして花見してたわけ」
「器用ね、ホント。あの跳ねすぎて困るボールをポンポンやりながら桜見上げたとか」
「そうそう。で、こう……思いっきり高く」
手で長い弧の形を描き、頂点を過ぎたあたりで止めた。ほんとうに、上手いことやってしまったのだ。塀が並んでいる御屋敷通の桜の、ひときわ大きく、そろそろ満開になって花に覆われた一本の中に、吸い込まれていった。
そしたら、ぽーん、と。
「戻ってきた……?」
「そう。で、よく見たら、桜の木のところからにゅっと手があってね」
「待って待って待って」
「妙に白っぽいなぁとか思ってたら、見えなくなっちゃった」
「……」
「友奈?」
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