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『同じ花は咲かないから』
不意に思い出した声は、遠かった。響くようで、消えてしまいそうな、声。
今日はさほど気温も高くなく、桜は昨日とあまり変わっていないように見えた。そこは誰かの家を囲う、高くて白い、立派な塀が並んでいる通りで、細い道であるせいか、人通りはほとんどない。堀の向こうに立つ桜の幹がどんな形なのか、枝は広く道を覆い、花を咲かせていた。
枝の下から、ほんの少し外れた位置で、誰もいない道を目に移しながら、壁にもたれる。
なんとなく……予感があった。
「……ひ、さしぶりって、言っていいかな」
つぶやきにしては大きくて、遠い誰かには届かない声。心臓の音よりは、しっかりと耳に届いたから、少し安心した。
「……そうだね」
近かった。声は、想像していたよりもずっと、近くから聞こえた、けれど。
――同じ、だ。
確信する。同じだった。一年前の、同じ桜で出会った――桜の精霊と。
息を吸う。いつもは意識なんてしないのに、とても難しいくらい。呼吸に集中するために、瞼を閉ざせば、つい昨日のことのように、記憶は簡単によみがえった。
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