桜の下で

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 きっかけが何だったかなんて、あまり覚えていない。  ただ、一つ上げるとするのなら、卒業式で同じクラスの友達から、告白されたことだった。  一人は男子で、一人は女子だった。  どちらも、ほどほどに話したことのある間柄で、けれど恋人どころか友達の中でも接点の少ない二人だった。  言葉を紡ぐのが、あれほど難しかった事はない。見送った背中が、小さく消えても残像が見えた。泣きそうになりながら帰っていった女子は、転居に伴って別の高校へ行き、男子の方とは文理の選択が分かれた時点で、繋がりもなくなっていた。  それだけだと、その時は思っていたのに、どこかふわふわと落ち着かない春休みを過ごすうちに、高校生になるのが、ひどく嫌になった。  代わり映えのしない同級生と、クラスメイトと友達と。慣れた人間関係に、不満なんてないはずだったのに、その中へ戻る日が来るのが憂鬱だった。  春休みの登校日に、家にも戻れず、学校へも足が向かず、ただぼんやり、咲き始めた桜の下で風景を眺めていた。  誰もいなくて、誰も知らない場所みたいだった。自分も他人も勉強も生活も、みんな全部。     
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