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気持ちは……楽になるどころか、不意に目が熱くなった――その時。
ひどく優しい声が、した。
『どうしたの?』と。
周りに人がいないのに、話しかけられて驚いた。混乱して、ずいぶんとうろたえたけれど、変わらない落ち着いた声音が、動揺を拭い去るのに、時間はそうかからなかった。
ちょっと見栄を張った自己紹介をして、あまりに不思議な状況に、桜の精霊か、なんて尋ねてしまって、後から赤面したのは、むずがゆくなるような思い出だ。相手は、うん、それも素敵だ、なんて笑っていたけれど。
それからは、毎日がお花見だった。
固い茶色のつぼみが、だんだんと解けて、少し濃いピンクになり、やがて開き始めて桜の花になっていく流れを、一本の木の下で追いかけた。
毎日、毎日。咲く花と、散る花と、また咲く花があって。
他愛ない話をした。笑い話もあったし、泣くほど悔しかった思い出も語った。桜の下にいるせいか、花の話題も多かった。
五分咲きだったのが、満開になって、やがて散り始めて。
ひらりひらりと舞い落ちて、白いじゅうたんが敷かれるようになって。
喉の奥で固まったまま、決して問えない質問があることに、ようやく気が付いた。
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