1弁 「花見客」

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「はっくしょん!」  けたたましいくしゃみが、花見客の笑い声や話し声の間から聞こえてきた。 「大変だな。花粉症の人は。」  満開の桜の下、優人がブルーシートのしわを伸ばしながら言った。いくら桜がきれいでも、花粉症の人は目とか鼻とかがわだかまりになって、目の前の景色を素直に楽しめない。  まるで今の自分みたいだ、なんて考えてしまう。別に俺は花粉症ではない。だから、今頭上に広がる麗しい桜を精一杯楽しめる。  でも、桜をみると、どうしてもあの時の事を思い出してしまう。 「よし、シートの準備はオッケー。あいつらいつ頃くんだっけ?」 「んー、どうだろうな。買い出し行くっつてもコンビニだろ? そろそろ来るんじゃない。」  こんな事を言っているけど、頭の中ではあの時の記憶がぐるぐると渦を巻いている。多分、俺はもうとっくにその渦に飲まれていて、これから先もそれを抜け出せない。そんな自分が少し嫌いだった。  渦の中を探れば、いつもあの顔が浮かぶ。もう四年もたったのに、なんでこんなにも輝いているんだろう。渦の中の彼女は、四年前と変わらないえくぼの利いた笑顔で、じっと佇んでいる。
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