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2弁 「犯人」
「はっくしょん!」
あいつもか。それにしてもでかいくしゃみだ。そんなに俺の事が嫌いかよ。確かに、今年の俺は去年よりも多めに花粉をまき散らしている。アレルギーの奴はさぞかし辛いだろう。
桜は良いよな。春になるとこんなに人が来てくれて。俺ら杉にはそんなもの一切無い。桜も俺も、やってることはただの生命活動だ。それなのに、桜はこの時期人間に好かれ、俺らは嫌われ……。
多分、花見に来てる奴らの大半が花粉症なんだろうな。屋台に集まるやつらも。さっきのくしゃみ野郎と話してるあいつも。そいつら全員、桜と俺らを対比させて。「桜はいいなあ!」なんて言っちゃって。
結局、世の中ってのは理不尽なもんなんだ。何に生まれるか、どこに生まれるか。これでそいつの価値が決まる。
俺は「杉」に生まれたせいで、嫌われる毎日だ。それに杉なんてどこにでも生えてるし、見た目もぱっとしない。
でも、もしあの桜たちが、俺たちの立場に置かれたら。
最近はこんな事ばかり考える。一年中、どこを見てもピンク色。どれだけ車で走っても、ピンク、ピンク、ピンク。毎日降り注ぐ花びら。道路も、家も、街が、ピンク。
それでも人間は「桜はいいなあ!」と朗らかに歌うのか。
強い風が吹いた。ピンクの雨が、人間らに降り注ぐ。おおー、と歓声が沸く。まるで、俺たちを否定するみたいに。お前らの周りで、数え切れないぐらいの量が今日も必死に生きてるのに。
春風に乗せて、俺たちも花粉を飛ばす。こうなったら、嫌われる事しか出来ないんだから。そうするぐらいでしか、自分に気づいてもらえないんだから。
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