3弁 「彼女」

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 その時から、私の意識は拓人君に集中した。  別に私から話しかけたりはしないけど、それからの生活では拓人君の存在感が急に大きくなった。  毎日あいさつ運動してたんだ。数学の係なんだ。あの人と仲が良いんだ。  学校の中で拓人君という存在だけがはっきりとしていく。もしかしたら、これが好きってものなのかも。そんな事も考えてみたりした。  本人はさらっと言うつもりだったみたいだけど、どうもそれは難しいようだ。  卒業式も終わると、校庭で在校生が卒業生の見送りをする。一回ちゃんと校門のところまでは行くんだけど、皆校庭に戻って記念撮影をしたりただ喋ってたりして、本当に最後になった学校生活を精一杯楽しむのが恒例だった。  私もテニス部の後輩と一緒に写真を撮って、監督とも、友達とも撮って、楽しかった。  一通り写真を撮って落ち着いた時、後ろから肩をつつかれた。テンションが高かったから勢いよく振り返っちゃったけど、それが拓人君だと分かった瞬間、急に体が萎縮した。「空気を読め」「ここは大人しい女子を演じろ」「慎重にいけ」私の中の誰かがそう言っているような気がして、急いでいつものテンションに戻す。     
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