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沈黙が流れた。後ろでは友達がまだ騒いでいるけど、深い、深い、沈黙だった。
「あの、まあ、なんてゆーか……」
心臓がいたい。こんなに緊張するのは初めてかもしれない。拓人君はもっと緊張してるのかな。
お互い同じ気持ちなんだから、もっと気楽にいけば良いのに。この緊張は、正直なんの意味もない気がする。
時の流れが、すごく遅く感じる。目の前では拓人君が顔を真っ赤にして、地面を見つめている。
長い時間が過ぎて、誰も写真を撮らなくなった頃、
「ねーねー! 玲奈も来なよ!」
私の腕を握った手が、体を揺らした。美香の声だ。彼がまるで夢から覚めたみたいに、顔を上げて、眼孔を広くした。その目は、私をくぐり抜けて、後ろにいる美香を見つめている。あっ、とかすれた声が聞こえた。
「あの、ちょっと今は……」
「大丈夫、いいよ。ごめんね。いきなり。」
拓人君は逃げるようにして、まだまだ騒がしい卒業後の団らんに溶けていった。
これで、終わり。
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