1章 あの日、桜の木の下で

1/1
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ

1章 あの日、桜の木の下で

あの校庭の桜の木はね、満月の夜になると光を放つんだよ――  望月沙紀は小学3年生。沙紀が通う学校の桜の木は、そうまことしやかに噂が囁かれていた。  放課後、沙紀たちは毎日学校のグラウンドで遊ぶ。校庭にはフェンス沿いに6本の桜の木が植えてあって、そこからなだらかな丘になった少し先の一番高いところに7本目の木が立っている。沙紀は仲良しの友達絵梨ちゃん他2人の友達と毎日鬼ごっこやかくれんぼをして遊ぶのが日課だった。それは、いつも遊んでいる7番目の桜の木に腕を伏せて目を隠し、かくれんぼの数え始めた時に起きた。 桜の木の下には死体が埋まっている―― ゾクッ。 私はふと、前に大人から聞いた迷信を思い出して背中に寒気を感じた。 皆を探そうと振り返ると、見慣れない女の子が立っていた。年は私たちと同じ頃。でも、その子のことは学校で見かけたことがなかった。 3年生だけど、まだ知らない子居たんだな。 なんて私が思っていたら、思わず口が開いていた。 「え……と。あなた、だれ?」  私も、その子が立っているだけならたぶん声をかけなかったと思う。  だけどその子は一緒に遊びたそうな目でじっとこちらを見めてきていた。真っ黒で真っ直ぐな髪の毛を真っ直ぐに長く腰の辺りまで伸ばして、前髪は目の上辺りで切りそろえている。  私の様子が変な事に気がついた皆が戻ってきた。私は物静かで、どこと無く影のある雰囲気のその子に最初は面食らったけれど、たぶん私だけじゃなくてその場に居た全員が面食らっていたと思うけれど、 「わたし、小夜(さよ)。いいの?仲間に入れてくれる……?」 話しかけられた事がよほど嬉しかったのか、その子の白く透けるような肌に赤みが差して、まん丸でパッチリとした目が明るく輝いたその時、その場に居た全員がたぶん心の中で小夜ちゃんと友達になるのを決めていたと思う。 「絵梨だよ」 「私は沙紀」 自己紹介をされて仲間に入れてもらえたと感じた小夜ちゃんの顔は、ぷっくりとした小さな唇にピンク色の艶が宿り、さっきはなんとなく陰気に見えた髪の毛も今では腰の辺りでさらさらと揺れている。 その日から、私たちは放課後必ず一緒に遊ぶようになった。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!