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結果から言えば、佐藤の言う通りだった。一般公開前に現場を覗いてみて、凛子は絶句した。
(これは)
満開の桜をモチーフにしたそれは圧巻で息をするのも忘れるほどだった。ライトと布を巧みに使い、花びらをひとつも使うことなく、見事に満開の桜を現していた。
(これほどのセンスがあって実績がない?)
驚きから覚めると今度は疑念が過ぎった。調べてみても確かに櫻木烏夜に主だった実績はなかった。だが、あの日、佐藤が視線をそらしたのも気になる。
「どうだ。すごいだろ」
佐藤は凛子を見かけると自分がデザインしたかのように威張っている。
「確かにすごいです。よく見つけましたね。こんな逸材」
「あー、まあな」
「どんな方なんですか」
「いや、その」
「確か、伊豆に住んでるんでしたっけ?」
「おい、会いにいく気か?」
「いけませんか。明日から休みですし」
「そんな好奇心でせっかくの休みを潰すなよ。な?」
「こんなすごい空間デザイン、公表したらどのみち、皆櫻木のことを調べ上げますよ」
佐藤は頭をかいた。
「ま、そりゃそうだ。そんなに気になるなら本人から聞きな」
「本人?」
「野風先生!」
佐藤は急に大声を出した。振り向くと眠たげな顔をした男が手を振った。野風?
「やあ」
「企画の瀬戸です」
凛子は頭を下げた。
「同じ企画なのに会ったことないねえ」
「同じ企画でも、別案件やってまして」
佐藤が言う。
「素晴らしいです。櫻木先生。今度は是非、私と」
「櫻木?」
男はかくんと音がしそうなほど唐突に首をかしげた。
「え? でも」
「ああ、そっか。今、俺櫻木かあ」
「先生、それどういう」
「先生」
佐藤が遮った。
「ちょっとあすの打ち合わせをしたいんですけど」
「いいよー」
「ちょっと佐藤さん」
「後は自分で調べな」
櫻木を連れて外へでなから佐藤が言う。凛子は呆然と光と布の満開の桜の中で立ち尽くした。
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