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「かなこ先輩、今日合奏ありますか?」
一年生のハナが無邪気な笑顔で聞いてきた。
「先生の都合で無くなったみたいよ。」
「よかったぁ~!実は昨日バスケして突き指しちゃって」そう言って包帯の巻かれた人差し指を差し出した。
「えー!それスグには治らないやつじゃん?!」
コンクールが迫っている。
ただでさえ練習不足なのに、と少し不安になる。
京成高校吹奏楽部でフルートを吹く矢島かなこ。
三年生の先輩が引退したら、部長に就任することに決まっていた。
「ハナ、なるべく急いで治してよ?!」
「え~急いでって・・無茶言いますねぇ~。」
なんとしても、金賞を獲って、先輩達を送り出したい。
「怪我したの?」
「あ、中山先輩。そうなんです、突き指しちゃって。」
「卓也、サックスは怪我人出ないようにね。」
「ウチのパートは、みんな大人しいから大丈夫。」
「あー、中山先輩がフルートディスったぁ~。」
ハナが口を尖らせて笑いを誘った。
「まぁ確かにウチらは楽器に似合わずワチャワチャしてるからね~。」
「矢島が部長になると先行き不安だな~。」
「うるさいよっ!」
卓也は笑いながらケースからテナーサックスを取り出し、教室に入って行った。
中山卓也と矢島かなこは中学からの同級生で、中学2年の春から3年の冬まで、付き合っていた。
友達の延長のような付き合いで、彼氏彼女である必要性が無いんじゃないかと、かなこから終わらせた。
それ以来、卓也がかなこの呼び名を苗字に変えた。
かなこはそれに寂しさを感じていたが、それを言うと未練があるように思われそうで、黙って受け入れている。
「かなこ先輩、中山先輩って彼女いるんですか?」
「さぁね~知らない。」
フルートが練習している教室に入ると、ハナがかなこの腕に絡みついて来た。
「中山先輩、カッコいいですよね~?」
「そぉ~お?」
「はい!めっちゃカッコいいですよ!かなこ先輩、中学同じだったんですよね?モテてましたか?!」
「さぁ~、まあ、そこそこじゃない?」
「昔は彼女いたでしょう?」
「さぁね~」
「先輩、さぁ~ばっかりー。」
「もう、いいから練習するよっ。使える指でやれることやりなよっ。」
ハナは卓也のことが好きなんだろうか?
あのコが告白なんかしたら、卓也はOKするのだろうか?
かなこは、焦りに似た変な気持ちになった。
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