1人が本棚に入れています
本棚に追加
「かなこ~、一緒に帰ろう!」
部活終わりにトロンボーンの美奈が手を大きく振って合図してきた。
「ごめーん、今日晃二と帰る約束してるー。」
「う~~っリア充恨む~ぅ!」
眉間にシワを寄せて叫ぶ美奈に、クスクスと笑い声が立った。
かなこは校門の端で、サッカー部が終わるのを待った。
帰っていく吹奏楽部のみんなに手を振りながら。
「じゃあね。」卓也とも手を振り合った。
胸がザワザワしてしまう。
「カナ、ごめーん!お待たせ!」
守山晃二がスパイクを仕舞いながら走ってきた。
「お疲れ。」
お互いの笑顔を確認しあった。
高校に入学して間もなく晃二から告白されて付き合い始めた。
かなこも、クラスのムードメーカー的な存在で、明るく頭の良い晃二には、はじめから好印象だった。
「カナ、スタバ寄って帰ろうよ。」
「うん、賛成!」
スパイクを仕舞い終えた晃二は、左手で、かなこの右手を取った。
大きなゴツゴツした手が、かなこは好きだった。
「そうそう、オレさぁ、次期キャプテンに決まった。」
「おぉ!おめでとう!!」
「ありがと。」キャラメルフラペチーノを飲みながら、誇らしげな笑顔の晃二。
「カナも部長だもんな。」
「うん。」
「お互い頑張ろうな。」
「そうだね!あぁ~晃二のキャプテン姿観たいなぁ~。」
「吹奏楽部も忙しいから、なかなか試合観に来れないよなー。」
「そうなんだよね~。晃二はサッカーしてる時がカッコいいのになぁ~。」
「普段そうでもないふうに言うなよー。」
笑い合って、テーブルの上で手を繋いだ。
晃二はいつも優しくて、いつも楽しい。
マメにLINEをくれるし、誕生日には少ないお小遣いを貯めてネックレスを買ってくれた。
卓也と付き合っていた時は、プレゼントなんて貰ったことが無かった。
LINEも必要最低限。
手も繋いだことがなかった。
「そろそろ帰ろっか。」
「うん。」
1時間ほどの時間が一瞬に感じる。
晃二は話しが上手いし面白い。
お互い部活が忙しい分、たまに過ごす二人の時間がとても貴重だった。
いつもの道も、手を繋いで歩くと、景色が違って見えるのは不思議だ。
公園前の分かれ道。
「カナ。」
晃二の顔が近付く。
いつもの、優しいキスだった。
最初のコメントを投稿しよう!