心の在処

2/19
647人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
肖像画も佳境に入った。 後は描き込むだけだ。 力を秘めた目や、緩く上がった口角、形の良い唇に外国人のような高い鼻筋、ブレザーの襟の重なりや、光沢のある金のネクタイ、細くしなやかな指、革靴の光沢、挙げればきりがない。 こうして描いていて思うのは、描いても描いても終わりなんか何処にもないこと。 結局は自分の自己満足で終わってしまうこと。 裏を返せば、自分の描きたいように出来るということ。 目の虹彩や瞳孔、膜の張り方、瞼の立体感、睫の生え方や太さ長さ、涙袋の厚み、目だけでも描き込める要素はたくさんあるが、描き込む時に全体のバランスも見なければいけなく、背後の黒い垂れ幕や会長が座る椅子はあくまで背景であることを鑑みてあまりディテールを施すことは出来ないし、組んだ右足は一番前になければいけなく体は後ろにあるという前後関係や遠近感も同時に作り上げる必要があった。 かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた『モナ・リザ』は空気遠近法というものを用いているし、クリヴェリの『聖エミディウスのいる受胎告知』には透視図法、ポール・ゴーギャンの『アルルの夜のカフェにて』には重なりを持たせることによる遠近法を用いている。 人間の目というものは、遠近感がない絵には違和感を感じてしまう。 何故そう感じるか? 一度周りを見渡してほしい。 それでも気づかないというなら、それは認識していないだけで、 よくよく見てみるととある一点ーーー消失点に向かって扉や壁の線が伸びているため斜めに見え、また遠くにあるものはぼんやりと小さく見える。 また、2つの物を前後に置けば『手前』と『奥』が生まれるだろう。 これを絵に押し込めたのが遠近法と呼ばれるもので、奥行きを持たせ空間を作り出す。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!