いろ

2/10
647人が本棚に入れています
本棚に追加
/281ページ
ーーーいろは。 ーーー大好きよ、いろは。 母さんっ! 行かないでよ!! ーーー大丈夫よ、いろは。 ーーー母さんはいつだってあなたの味方だから、ね? 母さん………っ!! その日を境に、母さんは俺に話しかけることも、笑いかけることも、叱ることもなくなった。 俺を置いて、何処か遠くへ行ってしまった。 白い部屋の真ん中の、白いベッドの上で、白い服を着た人たちが囲む中で、静かに目を閉じた。 まだ小学校に上がる前の子供には残酷な別れだった。 どうして自分が、どうして自分だけ、どうして。 誰も答えてはくれなかった。 皆、一様に顔を逸らした。 憐れみの視線だけ投げかけた。 傷心中の幼子を置き去りにして、やれ相続はどうするだの、やれ誰が引き取るだの、まるで邪魔だと言われているようで、 死にたくなった。 生きることが嫌になった。 独りになることが恐怖だった。 母さん。 俺は、独りだよ。 どうしたらいいの…? 誰か、教えてよ。ねえ…。
/281ページ

最初のコメントを投稿しよう!