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「あんな所にいたら死んじゃうでしょ!?」
「かもな。」
暗い闇のような目に震えは止まらなかった。
「ーーーー死にたかったの……?」
その問いには首を横に振った。
「黄泉の国って知ってるか?」
知ってるかって聞かれたら知ってるが、脈絡のない話に戸惑う。
それでもいろちゃんは尚も続ける。
「母さんから聞いたんだ。死んだ人はみんな月に行くんだって。死者の国は黄泉の国って言って、そこで暮らすんだって。だから、死ぬことは怖くないって。」
「何で……。どうして、その話をするの……?」
「月に行きたいんだ。」
まるで話が噛み合わない。
「いろちゃん!!」
声を張り上げて名を呼ぶと、やっと目が合った。
ラピスラズリのような深い青の瞳だった。
「母さんに会いたいんだよ。」
え。
それってさ………。
「お母さん、死んじゃったの……?」
いろちゃんは無言で頷いた。
「心臓に重い病気を患っていて、医者が言うには随分長い間生きたって。まだ三十二年しか生きていないのに……、何処が長いんだろう。まだ、やりたいこともあった筈なのに。」
淡々と語られた話に返す言葉が見つからなかった。
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