月が見える日

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「出来ることなら、また会いたい。会ってさ……、今までのことを話したい。母さんが死んでしまってから、引き取ってもらったこと。引き取った人が優しかったこと。俺に絵を教えてくれたこと。絵を書くために此処に通わせてくれたこと。瑛汰や小福、将貴と友達になったこと。先輩が出来たこと。会長の肖像画を描いていること。」 そこでいろちゃんは俺を見た。 真っ直ぐと。 その青い瞳で。 ふわり、と花が綻んだように笑った。 「奏と会って、恋人になったこと。」 嫌だったんじゃないの? 渋々受け入れたんじゃないの? これは、きっと月が見せた夢だ。 だって、いろちゃんは笑わない。 前に見た笑顔は無理に作ったものだった。 だから、今此処にいるいろちゃんは俺が作り出した幻だ。 「かなで。」 舌っ足らずで俺の名前を呼んだから、「なあに。」って頭を撫でた。 「いなくならないでね。」 そう言い残して夢の世界へと旅立ったいろちゃんに「おやすみ。」と額にキスを落とした。 いなくならないで、か。 それはどういう意味だろう。 まるで、俺を引き留めておきたい、みたいな。
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