月が見える日

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真っ暗になった画面が濡れた。 いろちゃんの隣に座って、こつんと額にスマホの角を押し当てた。 「ははっ………。これじゃ、ただの悪者じゃん……。」 きっと今頃将貴は俺の携帯に電話をかけてはかけ、繋がらないことに焦っているのだろうし、途中で俺が電源を落としていることにも気づいただろう。 これで彼奴が気づけばそれでいい。 俺じゃ駄目だからさ。 俺は本気にはなれない。 恋愛体質だっていろちゃんには言ったけど、厳密にはそうではなかった。 恋愛をして、感情が高ぶればそれを音に出来る。 楽しいことも悲しいことも怒りも喜びも並行して得られるから。 心が壊れている。 そう揶揄されたこともあった。 そうじゃない。 心があるから音楽が出来る。 ただ、俺の一番は音楽だったから。 彼女が出来ても曲のメロディーが頭に浮かべば、優先するのは何時だって音楽だった。 それに比べて将貴は、書道も彼女もどちらにも重きを置いた。 俺を振った彼女は誰もが将貴に惹かれていた。 それを分かっていたから、振られても仕様がないなってまた別の恋を探した。 そうやって俺は生きてきた。 恋をしてきた。
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