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初恋だった。
きっと、いろちゃんに会ったあの日、月に照らされて一人静かにぼんやりとしていた横顔が気になって、声をかければパッと花が咲いたように笑顔に変わったその姿と、月の光によって反射して見えたラピスラズリのような深青色の瞳に惹かれたんだ。
「いろちゃん。いろは。」
心地良さそうに眠る彼の唇に自分のものを重ねた。
お試しの恋。
なんて言わなければ良かった。
そうすれば、誰一人として傷つかなかっただろうに。
一番の被害者はいろちゃんだというのに。
どうしてか、心が痛いよ。
「仮の恋人が本当の恋人になることはない、って諦めたら楽なのにね。」
将貴を焚きつけて、いろちゃんが俺を選んでくれたならどんなに良いかって心の何処かで期待している。
初恋は実らないって良く聞くし、昔に出会っていたことなんていろちゃんが覚えている筈がないから。
束の間の喜びに浸りたいから。
首筋のその傷の上にキスマークをつけた。
これで俺の罪が消えたわけじゃないけれど、少しばかり心が軽くなった。
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