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「上のボタンを押すんだよ。両方が半押しのままだと動かないけど、片側を押すと動くから」
小森さんは、俺の側のボタンをポンっと押す。
「これで鈴木の時間が減り始めた。動き始めた。どんだけ有利に進んでても時間切れになって赤い旗が落ちたら負けだけど、音はしないし、時間切れも教えてくれない。自分たちで確認しないとダメなんだ」
「小森は相手が時間切れに気づかないで勝ったことあったな」
「いや、あれは落ちた瞬間だったから。俺の勝ちだから。あと、もう時計止めろよ小森」
先ほど押したボタンの逆側を軽く押して高さを水平にすると、時計は止まる。
「本来は後手の人が時計の位置を決めるんだ。大抵は自分の押しやすい位置、利き手側に置くから右側に置く。室伏くんは右利きみたいだからこのままで大丈夫かな?」
「はい。ありがとうございます。あと、先手後手はどうやって決めるんですか?」
「振り駒で決める」
「振り駒?」
鈴木さんは頷き、自分の歩を五枚持ち掌で包んで振り混ぜると盤に軽く落とす。表を向いてるのは"歩"が一枚に裏面の"と金"が四枚だ。
「放った側が"歩"の面を多く出すと放った人は先手、"と"を多く出すと後手。この場合は俺が後手だな。今回はハンデで時計の位置はこのままにしとくから」
鈴木さんの残りの持ち時間はあと三分。
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