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俺の仕事はそんな違法チップ所持者を逮捕し、この国から違法チップを全て駆除することだ。
「B3地区に違法チップの密売人が出入りしているらしい。次の裏取引の日にちも抑えてある。君には取引現場に潜入してもらって、違法チップを回収して来て貰いたい」
数日前、上司にそう命令されて俺はこの場所に来た。
誰にバレることもなく密売人から違法チップを押収し、明日にはこの仮住まい生活ともおさらばになる。
アパートの狭い1室。現場に潜入するための仮の暮らしとはいえ、息が苦しくなる。
眠れない身体になってからというもの、1日というのは随分と長くなった。
眠っていた頃は長い労働終わりに家に帰って、もう少し自由に過ごせる時間があればと願ったものだが、いざそうなってみるとやることもなく退屈で仕方がない。
それももう何十年も前の話で今では記憶も曖昧になってきた。
眠ることもできず、1人で過ごす夜は実に寂しく、とても寒く感じられる。
何もすることがなく、ふと視線と意識は押収した違法チップへと向けられた。
「……くだらない」
使ってみようと考えた自分を、頑強で真面目な理性がくい止める。
確かにあのチップを使えばこの長い孤独から一時的に逃避することができる。しかしそれをしたからどうなるというのか。
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