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 動揺していないわけではなかったが、投与した感情抑制チップが微妙に効いていたため、別段取り乱すことなく周囲の状況を把握することができた。  最も近い容器に近付いて中を覗き込むと、硝子1枚を隔てた培養液の中で少女が浮かんでいる。  瞼を閉じ、穏やかな表情で微笑んでいる姿は眠っているのとそう変わりはない。 「勿論だ。彼らは眠っているだけなのだから」  突然空間に響いた声に目を向けると、いつの間にか広い空間の中央に白衣の男が立っていた。  一目で判る。この男こそが捕獲を命じられた犯罪者なのだと。 「此処の責任者か。なら罪状はわかっているな」 「罪、か。君も眠ることは罪だと言うのかね?」 「当たり前だ」  迷うことなくそう答えた。  何故なら、そう教えられたからだ。  それが正しいことだと。何も間違ってはいないと。  では、何故俺はあの時睡眠誘発チップを使った?  考えても答えは出ない。今はそんなことを考えるべき時ではないと誤魔化して、後で考えるべきだと先延ばしにして、この男を拘束すべきだ。  そう思って懐の武器に手を伸ばし掛けた俺の動きを白衣の男は言葉だけで制止させる。 「眠りとは限定的な死なんだよ。人は生を持って生まれ、死ぬ為に歩んでいく。最期を華々しく飾る為に人は日々の眠りで死を疑似体験する。死を演目だとするならば、眠りは涙ぐましい稽古だ」     
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