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何が、と言い返す前に続けて言葉が紡がれる。
「君は、どうなんだ?」
同じ問。同じ微笑み。
俺はその時。なんと応えたのだろう。
数時間後。連絡を受けた応援が駆け付ける。
人の入った無数の容器も、白衣の男も存在しない、何もない空間で1人佇む俺に銃口を向けてくるかつての同僚達。
「まさか、お前が睡眠誘発チップを使うとはな。此処に居た筈の犯罪者を逃したのもお前だろう」
余裕の無い声でかつての上司が問い掛けてくる。
成る程、彼はきっと強い人間なのだろう。
安堵など知らずとも、この過酷な世界から目を逸らさずに歩いていけるそんな人間。
だが、誰しもがそうではない。誰しもが強い光に立ち向かっていけるわけではない。
過酷な世界から逃避するのも、生存する上での1つの選択である。
それがどれほど周りから避難されようと。負け犬だと、臆病者だと罵倒されようと。
自分が此処に居ていいのだと安堵できることは何と幸せなことか。
「夢を……見たいんだ」
倒れ行く俺を、かつての同僚達が見届ける。
事前に挿入していたチップが起動し、徐々に意識は眠りの中へと誘われていく。
暖かな安心感。現実から逃げる罪悪感。
どうか友人達よ、この過酷な世界で生き抜いて欲しい。
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