あるいは、狭間。

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あるいは、狭間。

風が吹く。 山に吹く。 普段の彼とは真逆の、 力任せに叩かれる窓の音がする。 雲がやってくる。 山からやってくる。 普段の彼とは真逆に、 既に数分後の涙のにおいがする。 月が消えてしまう 星が消えてしまう 降る。降る。 もうじきに。 呼吸もままならぬ風の中で僕は。 満ちた月を隠した雲の中で僕は。 焦燥感さえ感じる今の中で僕は。 空を見ていた。 首を精一杯上に向け、 空を見ていた。 駆ける風の妨害に耐えながら うねる雲を分けいる月を見逃さないよう。 空を見ていた。 まるでこの世全てを埋めつくそうとする 二人に追い付きたいと願いながら 僕は。 空を見ていた。
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