2/6
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
 マイクロ波帯の電波に乗り、通信衛星へとジャンプする。数百にも及ぶ通信衛星には、全世界から人が訪れ日常的に混雑している。一機につき数千億テラにもなる記憶領域と、処理能力を持ち、データ化された人間の意識を処理し続けている。  スペースシャトル、ロケット、宇宙エレベーターといったような、人体を宇宙へ運ぶ計画は今では行われていない。安全な離着陸が求められ、わずかでも失敗しようものなら命を落とす事故につながるからだ。昔の天才たちは考えた。「事故が起こるのは人体を宇宙に運ぼうとするからではないか」と。  このことに気づいてからは早かった。世界中で競い合ったスーパーコンピューターの技術を人類の未来のために結集し、人類史上類を見ない性能のコンピューターを次々と空へ打ち上げた。ある物は水星へ、またある物は土星へ、物によっては外宇宙へと旅立っていったものもある。  人間側には当時、ゲーム技術が応用された。当時はあり得ないほど巨大なゴーグルを目につけ、グローブを嵌めた手で、気持ちだけは宇宙にいる感覚を味わっていたと聞く。後々に脳科学とバイオメカニクスの発達からコンピューター間だけでなく、人間とコンピューター、人間と人間を直接接続できるようになった。その媒体はネクサス5と名付けられた。  ネクサス5を使用することで、人間とテクノロジーは完全に融合した、といっても過言ではなかった。すでに全世界を覆っていたネットワーク網に人間というハードウェアが組み込まれ、情報網は太陽系中を、果ては外宇宙にまで及ぼうとしていた。  衛星のアンテナの向きが調整される間、地球を映したカメラの映像をリアルタイム速度で鑑賞した。ちょうど地球の向こう側から太陽が出てくる頃合いで、BGMにはクラシック音楽がぴったりだと感じるのは私だけだろうか。眩い太陽の輝きに対し、カメラが自動補正をかける。地球の深い青さと、雲の筋一本一本がはっきりと見て取れた。  大陸の一部は緑色を、茶色を、灰色に染まっている。灰色の位置には小さな構造体がびっしりと立ち並んでいるのが分かる。人間の都市部だ。人間の作り出したネットワークは既に宇宙にまで伸びているが、実際の生活圏は地球上でもほんのわずかだった。  タグがアンテナの調整を完了したことを告げる。新たに開かれた電波に乗り、私は木星軌道上に浮かぶ『ガリレオ宇宙望遠鏡』へと乗り移った。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!